新たなビジネス戦略の構築、新たな製品開発が問われる中、コンバーティング業界でも新たなニーズに対応すべくさまざまな取り組みがなされている。その中でも最近取り組まれているビジネスモデルの1つが、同一会社内の部署を独立させたカンパニー制である。この制度を取り入れ、社員に新たな姿勢を求めたスリット専業コンバーターのMSR(株)(北田博樹社長、大阪府松原市天美東7-1-14、TEL.072-336-5900、http://www.the-msr.com/)は、発展型企業としていくつかのスリット加工部門を社内的に独立させ、新たに組織化し、それぞれに責任者(工場長)を任命、その責任者のもとでスリット加工の請負、オペレーターの育成、スリット加工をはじめとしたさまざまな付加価値技術の開発などに取り組んでいる。1つの大きな点であった会社が、いったん小さな点に別れることで、相互に結び付き、将来のさまざまな形態でのビジネス展開の可能性が拡大する。そしてMSRは、早速、新たな事業として、2,500mm幅までの原反に対応したスリット・ラミネート加工、クラス1,000のクリーンルームでのスリット加工、そして中国・蘇州でのスリット加工事業を展開する。
カンパニー制導入、スリット加工を起点とする新ビジネス領域拡大へ
中国進出、2,500mm幅対応スリッター開発、プラコアリサイクル開始
     

★“問題の解決”型企業を目指す、ユーザーニーズに柔軟に対応
MSR(Matsubara Slitter Resolution)には“問題の解決””決意”という意味が込められている。その通り同社は、顧客が抱える問題に柔軟に対応する、研究開発型企業として事業を展開している。それ故、本業のスリット加工以外にもヒートラミネーション、コールドラミネーションなどの加工も行っている。
スリット加工は、さまざまな分野からの依頼があるが、ここ数年の電気・電子産業の発展に伴い、コンバーティング業界と密接な関連を持つフラットパネルやその周辺材料においても、コーティング加工やそれに付随するスリット加工の新たな技術開発が求められている。
フラットパネルにおいても、第6世代、第7世代(1,870×2,200mm)を迎え、サイズは増大傾向にあり、それに使用される素材の原反幅も2,000mmを超えるようになり、コーティングやスリット加工においても、それに対応する機器や加工技術が必要になってきている。
製品によっては“いかに薄く”、“いかに細く”といったテーマで技術開発が進められているのも事実だが、半面、液晶やプラズマディスプレーでは“いかに大きく”かが開発研究テーマに挙げられ、それに対応するコーティングやスリット加工でも、当然、幅広加工が可能な設備需要があるのも事実だ。この市場に意識して開発されたのが、MSRの2,500mm幅対応スリッターである。こうした広幅のスリット機はどこのメーカーで製造されているのかが気になるところだが、実はMSRオリジナルの機械であるという。社長の北田氏曰く、「2,500mm級のスリット機を導入するにあたり、専門メーカーに問い合わせることも考えましたが、われわれが今まで蓄積してきたスリット加工をベースに考えると、ハード面で、ロールの位置や張力の掛かり具合などを独自に研究開発して来た経験と、今まで蓄積してきたスリット加工技術をベースに、外部の技術者に設計から製造までの協力を得ながら自社で作り上げてみました」と、“研究開発型企業”という言葉を裏付けた。
このスリッターは、トナミ運輸(株)の倉庫を一部借り入れ、クリーンルーム使用(クラス10,000)で据え付けられていた。原反自体も2,000mm幅以上となると、搬入・保存・加工・搬出と一貫した物流の仕組みが必要となる。今まで扱ったことのない数多くの幅広原反をどうやってうまくハンドリングするかが、今後、更なる需要の増加に対応するための課題と言える。
現在、広幅スリット加工は徐々にではあるが始まっている。倉庫には2,000mm級の原反の木箱が並べられ、加工を待っている状態だ。また、8月末には、スリッター機へのラミネート加工装置の増設が決定しており、今後は、付加価値スリット加工への要望にも応えることも可能となる。
一方、大型スリット機が備え付けられている隣のエリアでは、クリーン度1,000でのスリット加工が行われている。電子関連の原反素材を扱っているので、当然クリーン度の要求が高く、芯材として、今までの紙管からプラ管に変更して加工するケースが増えている。
現場担当者(溝端氏(写真左)、柏原氏(写真右))に加工について聞いてみると、経験のない幅広の原反であることや持ち込まれている原反が高級素材ということで、作業にはかなり慎重に取り組んでいるとのことだ。中には、高級車が買えるほど高価な原反もあるということで、「その際は、原反の箱を開ける前に、原反の扱い方をはじめとした全体の加工の流れをイメージしてから取り掛かるように心掛けています」という。また、幅広の原反ということで軸を通したときに撓みが発生したり、環境によっては素材が変化する要因も潜んでいたりと、まるで生き物にでも接するような感覚が必要で、まさに自然現象を考慮した扱いが必要と語っていた。加工に失敗すればゴミとなってしまう工程だけに、ハンドリングは慎重に慎重を重ねている、と担当者は繰り返した。

 

 

★オペレーターから管理者へとスキルアップ
2,500mm幅対応のスリット機を導入するにあたり、北田社長の意気込みには凄まじいものが伺えるが、その勢いは会社組織の改革にも及んでいた。
「今まで、すべての加工管理を私が受け持っていました。しかし、自分の管理下だけで仕事をしていたのでは、従業員の将来性の妨げになると思いました。今後は、従業員自身が管理者としての立場を理解してスキルアップして欲しいと考えました。そこで、それぞれの独立した現場ごとに管理者(工場長)を指名し、その管理者のもとでオペレーターを育て、加工の段取りを決め、設備に対しても開発研究して必要なものを導入していく形でそれぞれのスキルアップを踏まえて組織化することを決めました。カンパニー制を導入することで、責任を分散させ、新たなことに取り組むことができるようになりました。また、現場サイドが直接顧客と話すことでダイレクトに要望を加工に反映することが可能となった」(北田社長)。
また、北田慎二専務(写真左)は、「1週間の工程管理、品質管理、出荷管理を把握して、現場サイドで決められるようになりました」と付け加えた。
これまでスリッターのオペレターとして仕事をこなしてきた杉山晃一氏、荒木浩士氏、山田進一氏(写真下左より)は現在、それぞれのスリット現場での責任者として任命された。オペレーターから管理者としての仕事をすることになった心境について、杉山、荒木の両氏は、「スリット機の機長を責任を持って育てることや、今までやったことのない加工や顧客ニーズに対応すべく付属品の改造ができるスリット機を使って研究開発に携わっています。カンパニー制が導入されたよって、社長や専務からの指示を待つことなく仕事を回せるようになるのが目標です」と語った。また、山田氏は、今年9月に設立予定の中国事業所へスリット加工の技術者として派遣されることが決定している。「バイタリティ溢れる中国市場で仕事をすることは大変刺激になり、それで培った経験を持ち帰って新たなビジネスチャンスに結びつけたい」と熱意あるコメントをした。

それぞれが独立した加工体制を構築は、同時に最初の顧客窓口となる業務担当者の責任も増大させることになる。納期、出荷先を確実に各現場の責任者に伝えることは、社内外の信頼を築く上での基本である。

★中国で機能性材料加工ビジネスを
多くの日本企業が中国市場へ参入する中、MSRも例外ではなかった。そのきっかけは、数年前の岩谷産業(株)との出会いによる。その経緯について、岩谷産業マティリアル本部合成樹脂部部長の田中幸博氏は、「既に、岩谷産業は、中国では商社現法、合弁会社、独資会社合わせて37社を有するビジネス展開を行っており、加工ビジネスにおいても汎用から機能性材料、または原料から加工品へとシフトしていく新たなビジネスの構築、展開を図っております。その中で、金属関連では金属材料の精密スリット事業を既に展開しており、フィルム関連のスリット事業の展開を新たに構築すべくMSRさんと手を組み、当社のこれまでの経験を生かしたチャイナオペレーションと、MSRさんのプラントオペレーションが、理想的な相互補完関係の成立となり、双方の合意に達しました」と述べた。
 中国の設立会社は、江蘇省太倉市城廂鎮城区工業園に蘇州艾思尓電子薄膜有限公司(Suzhou ISR e-Films Co., Ltd.)。登録資本金約1億3,000万円(予定)、光学フィルム等の機能性材料加工事業を専業とする。有効幅1,100mm、1,500mmのスリット機2台(うち1台は貼り合わせ装置付き)を設置し、クラス10,000レベルのクリーンルームも完備。従業員16名(うち日本人2名)で操業予定だ。現地スタッフの教育は、日本と同レベルの品質管理者をOJT(職場内教育)で育成する計画。MSRはスリット技術全般、岩谷産業は工場運営・管理・営業販売等と分業範囲を定め、今年11月末からの稼働に向けて準備を進めている。立地の選択理由は、上海市内から車で50分弱、ユーザーが林立する蘇州・無錫の工業団地へも1時間以内というアクセスの良さと、岩谷産業は前述の金属スリット事業を太倉市でオペレーションしており、既に現地での経験が豊富で投資環境に適していたからである。
将来展望については、「中国華東地区(上海・蘇州・無錫)は、世界の工場・中国の中でも、移動体通信、フラットパネルディスプレイ、電池の集積度が高く、ますます発展が予想されます。小さな構えですが今年スタートする新会社を軌道に乗せ、マーケットの発展に引っ張られる形で事業を成長させたいですね。また、華南地区でも同様の事業展開を望む声も寄せられており、早期に中国二極体制を実現したいですね」(田中氏)と、新たな国際的ビジネスに対して意欲を燃やしている。


★環境に配慮したプラコアリサイクルの物流構築
スリッター加工をする際に、必ず用いられるのが原反を巻く芯材。現在流通しているものは、紙管とプラコア(プラスチック管)に大別される。扱う原反によって紙管がいいのか、それともプラコアでなければならないのかを選択するわけだが、最近の高機能性材料のスリットでは、クリーンルームでの加工が必要不可欠となり、原反にも紙粉などの影響が出ないプラコアの使用がほぼ義務づけられてきている。今後、高機能製品にはますますプラコアが使用される機会が増えることが予測されるが、それとともに、使用後のプラコアを回収し再利用しようという動きが、仕事の60%でプラコアを使用しているMSR、プラコア回収に経験を持つ安田薬品(株)、そして,MSRと物流で提携しているトナミ運輸の3社連携により進められている。

トナミ運輸松原流通センター長の片岡久夫氏(写真左)によると、現在、環境に関する制約が増え、また企業によるリサイクル・再利用への取り組みは、特にISO14001の認証を取得している企業にとって決して無視できない項目となっているという。
廃棄物の問題に積極的に取り組んでいるトナミ運輸が持つ物流の力を利用することで、プラコアの回収に取り組んでいきたいと、新たな挑戦へ意欲を燃やしている。
プラコアの回収およびリユース等の経験がある安田薬品の小木曽孝雄氏(写真右)によると、「全国に流通しているプラコアの材質は、他社品も含め約10種類にのぼります。これらプラコアの回収・分別・検品をトナミの管理下において行い、戻ってきたプラコアは、再度、厳しい検査により仕分け、ランク付けされ、品質の度合いによってはそのまま、または再度適当なサイズにカットして再利用したり、コアとして再利用できないものは(材質が分かれば)樹脂として再利用することが可能です」という。事業のポイントは、「ユーザーさんの管の管理・対応にあります。「このコアはリサイクルされるもの」と意識していただくことが重要です」(小木曽氏)。
今後の課題としては、リサイクル事業としての輸送費や検品費などを考慮に入れ、ビジネスとしてうまくユーザーに受け入れられるように考えていかなければならないということだ。単なる国内の専業スリット加工会社としての殻を破り、開発型企業として、外部とのコラボレーションを巧みに築き上げ、新たなビジネスチャンスを生み出す威力がMSR。その威力は増すばかりだ。

月刊コンバーテック2004年9月号で紹介された記事を御紹介しております。
 
 
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